今あえて伝えたい、ディープじゃない(ゲーム)AIの面白さ

こんちには・こんばんは、SG事業部でゲームAI担当のid:hashtです。 KAYAC Advent Calendar 2018 15日目の記事をお送りします。

始めに

深層学習のビッグウェーブがゲーム業界をも席巻していますね。 例えばCEDEC2018で「機械学習」「深層学習」「ディープラーニング」のいずれかが含まれるセッションを挙げてみましょう。

実に10本ものセッションがあったわけで、他にもAIの文脈で多くの深層学習技術が紹介されていました。 AI概念の登場と共に興った第1次、エキスパートシステムが盛んに研究された第2次に続く、現在の第3次AIブームの活況ぶりが、こうした状況からもよく伺えるのではないかと思います。

AIと深層学習

深層学習の応用はさまざまな分野にわたりますが、共通して言えることとして込み入ったロジックを要さない(これはちょっと表現がアレですが)、どちらかといえば直感的な仕事が任されている、という点があるでしょう。 深層学習は原理的に言ってブラックボックス的で、刺激-反応の対応づけが基本です。表現学習により高次の抽象表現を獲得したり、LSTMで時系列データの中での(context-awareな)判断を行ったりということはできますが、論理的・記号的な処理はやはり難しいというのが現状です。逆に言えば、それでも非常に広範な応用が実現しているのは非常に驚くべき点ですね。 ともあれAIを作るという観点からすると、これは中身のロジックを練るよりも観察される振る舞いを追求していく方針、言わば工学的ロマンに基づくものなのです。

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ブラックボックスな図

ゲームキャラクターのAI

一方でゲーム世界と対峙する個体(エージェント)としてのキャラクターAIも脈々と研究され続けており、ビヘイビアツリーをはじめとする意思決定アルゴリズムの成立がその成果を象徴していると考えられます。 ビヘイビアツリーというのは高度なタスクをツリー状に組み合わされたプリミティブな行動によって実現するもので、抽象的なタスクをブレイクダウンしていって具体的な行動を決めるという、人間の思考の一側面を切り取っています。

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ビヘイビアツリーの例

こうしたアルゴリズムは意思決定というものがどう行われているかを分析・モデル化しており、そのロジックを見極めようとする点に注目すれば、深層学習の系統とは異なる理学的ロマンを秘めていると言えるでしょう。 他にも例えばユーティリティベースの行動選択は、経済学での効用(ユーティリティ)概念を導入したもので、単純なアルゴリズムであっても人間行動に関する知識を反映している部分があります。

BDIを取り入れたAIの例

また古い事例ですが、キャラクターAIとしてBlack & White(Lionhead Studios社)のものはBDIと呼ばれるアーキテクチャに学習をも組み込んだ設計になっていて、大いに感動した覚えがあります。 BDIアーキテクチャは大枠としては意志決定を信念(Belief)・欲望(Desire)・意図(Intention)によって構成されると考えるもので、信念は外界について(エージェントが分かる限りの)知識を、欲望はエージェントが達成すべき目標を、意図は実行中の行動についての情報をそれぞれ担うモジュールです。

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Black & White のキャラクターの意志決定

Black & White の場合、ここにopinionを追加して図のような構成となっています。Opinionはbeliefのうち、学習されてエージェントの内部状態に残るものを分離したモジュールだと言えます。

モジュール 構造 学習
Belief 個々のオブジェクトについての属性のリスト なし(現在認識しているオブジェクトだけ)
Desire いくつかの感覚入力(desire sources)を受ける単層パーセプトロン Widrow-Hoffの学習規則
Opinion オブジェクトがdesireに適切か判断する決定木 ID3
Intension 上の3つから構築されたプラン なし

こうしたモデルのパラメータが、ユーザーが指示したり(それがその状況における「よい」行動とされる)、フィードバックを与えたり、また更には他のエージェントの行動を観察することを通して学習されていくわけです。 ゲームAIという分野そのものが確立されていなかったことによりアカデミアからの輸入を余儀なくされた、という側面もあるのかもしれませんが、それにしても2001年の段階でここまでよく練られたキャラクターAIが登場していたことに驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

また学習が導入されていた点も興味深く、特にDesireの部分は隠れ層なしといえど一応ニューラルネットワークです。 ロジックを組み上げる(記号主義的な)アーキテクチャとパラメータの機械学習に任せる(コネクショニスト的な)アーキテクチャがここでは相補的に知能の一部を担い合っているわけですね。本当によくできたキャラクターAIだと思います。

BDIは元々哲学者マイケル・ブラットマンが提案したもので、それが計算機科学へと持ち込まれ、更にはゲームAIへと応用されたわけです。まさしく人間の意思決定を解き明かそうとする情熱が、こうしたキャラクターのAIを生み出したと言えるでしょう。

終わりに

手短な感じになってしまいましたが、ディープじゃないAIにも様々な魅力があることが少しでも伝われば幸いです。 カヤックでは知能のあらゆる側面に興味がある方を募集しています!

明日はid:taiga006がTouchDesigner面白すぎて夜も寝られないぜ的な話をしてくれるようです、お楽しみに!